結局焼けなかったテル男はもう一度海で泳ぐ決心を固めた。
何も見ないようにして、近づいては遠ざかる波に足を入れた。


(よっしゃ!俺、今海に入ってる!!がっつり泳ぐぞ!!)

そう思って1人で握りこぶしを空へ突き上げた。


「何をしているんですか」
「ちょっと異常な光景ですよ、テル男先輩」

そう声をかけてきたのは桜彦と帝盟縁だった。
テル男は2人に振り向き「今から泳ごうと思ってな!気合入れてたんだ!」と言う。
そんなテル男を見て2人は顔をしかめた。

「…水の中にわざわざ入るなんて…」
「そうですよ、テル男先輩…物好きですね」

呟くように言う桜彦。
テル男に笑いかけながら言う帝盟縁。

テル男は一瞬考えてデカイ声で叫ぶ。
「…ってかお前ら海入んないのかよ!!」

「煩いです、平井先輩」
と、耳を押さえながら桜彦が言った。

「いやいや、これ俺の普通だから!…つーか海来たなら泳がねぇと意味無ぇじゃん!!」
テル男は先ほどと同じ声のデカさで話す。

「…でも、砂で建造物を作るというのも楽しいですよ」
帝盟縁が苦笑いしながら言う。

そんな帝盟縁に詰め寄りながらテル男は反論した。
「いや、それは邪道だ!俺の中の海の道に反する、俺のルールには無い!」

「…平井先輩のルールに僕たちを巻き込まないでください」
「…そうですね」
呆れたように桜彦が言うと帝盟縁も同意して頷いた。

「なんだと!!」
先輩に口答えかよ!
そんな気持ちを込めながらもテル男は叫んだ。
だが、そんなテル男の思いを跳ね飛ばすように桜彦が静かに言う。
「…平井先輩のように僕に海のルールがあるとするなら、僕の場合は海で泳ぐ事が邪道です」

テル男は固まった。
「は……?」
と一言言って。

そんなテル男に気付いているのかいないのか、帝盟縁も静かに言った。
「…水の中でバタバタ騒いで楽しいですか?…私は、そう言うの嫌です」

そんなテル男の邪道2人組に心まで折れそうになったテル男だが、
「このままではいけない」という謎の使命感が心を満たしていた。

「わかったぜ!そんなに言うなら俺が海の45箇条をお前らに教えてやるぜ!!」
テル男がまた握りこぶしを空に掲げた。
テル男の白い歯が光り輝いている。

桜彦と帝盟縁は内心、面倒くさい先輩だ。
と思っていた。


そのままテル男は1時間近く海について熱く語っていた。
だが、既に桜彦と帝盟縁の姿はなく、1人で話をしているただの変人になっていた。


「皆川君、テル男先輩はあのままでよかったんでしょうか…」
帝盟縁は心配になっていた。
他のメンバーに奇妙な目で見られているテル男の事が。

だが、桜彦は涼しい表情でテル男を見て言った。
「いいじゃないですか…?語らせておきましょう」

と。



草之丞に「なに1人で話してんだよ」と言われるまでテル男は2人がいなくなっていた事に気付かなくて。
海で泳ぐ事もなく、ただ無駄な時間を過ごした。





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